Chapter0ー集え冒険者


 ……かつて星の戦士が星々を結び、大彗星を呼び出したという伝説が残されている銀河、『ミルキーロード』。


 そして、ここはポップスターに連なる七つの惑星のうちの一つ。


ーー『常夜の星』ハーフムーン。


 これは、一人の少女が、一人前の魔法使いになるためのお話。



ーーEpisode2.リアルの場合



 「……しょ…」 


 「……ししょ……!」


 「………」


 「師匠~~!!いつまで寝てるんですか~!起きてください~!」


 常夜の星の一室に、少女の声が響き渡る。

身の丈以上もある杖を大事そうに抱えながら、不服そうに頬を膨らませる少女は訴えかけるように天蓋を睨み付ける。


 「全く……そんなに大きい声をだすんじゃないよリアル…それに、まだ夜じゃないか」


 「ハーフムーンはずーーーっと夜ですよ!!師匠ったらもう15時間は寝てますから!今日は私の魔法の練習に付き合ってくださるって言ってたじゃないですかあ~!」


 …暫くして、少女の抗議の声に耐えかねたのか、『師匠』の声が気だるそうにベッドの中から帰ってくる。


 文句を垂れる師匠に対し、『リアル』と呼ばれた少女はコツコツと杖を鳴らして抗議する。


 「……あー…そんなことも……言ったっけ……」


 「言いました!!ほら、早く起きて!わたしはもう食べましたけど、ごはんはとっくに出来てますから!」


 「え~…めんどくさい…………」


 「……ん、いや、待てよ…リアル、お前私のとこで魔法の練習初めてから今どのくらいだ?」


 ふと、師匠の声のトーンがなんとなく上がる。これはまた師匠がよからぬことを思い付いたかと、リアルは身構える。


 「今ですか?……丁度2年くらいでしょうか…」


 「うんうん、そうだよな……」


 気づけば、師匠はどこからともなく取り出した羊皮紙に、これまたどこから出したのか分からないペンで何かを熱心に書き込んでいる。


 「あのー……師匠……?」


 「…よし!」


 つ、と不安そうに覗きこむリアルの頬に汗が伝う。すると、師匠は満面の笑みでベッドから飛び降り、ふわりと着地してこう言った。


 「リアル、お前、冒険者になりなさい!」


 「……は、え?冒険者……?」


 状況が全くつかめていないリアルに対し、師匠はお構い無しとばかりに続ける。


 「リアル、お前ケビオスって星は……前に教えたよな?ここ、ハーフムーンが位置するミルキーロードの星の一つで……まあ、言ってしまえばお隣の星だな。」


 「はあ……」


 「それで、だ。これからお前に臨時課題を出す!それは……『そのケビオスの冒険者ギルドに登録して、大迷宮で魔法使いとしての実戦経験を積んでこい!』だ!」


 「……」


 「えええええええ!!?」


 ようやく師匠の考えていることを理解できたリアルは、思わず叫び声を上げる。ケビオス?冒険者?ギルド?……初めて耳にする単語が頭のなかをぐるぐると巡る。

 そもそも、リアルは生まれてこのかたハーフムーンから出たことすらないというのに、そんないきなり……


 「はい、じゃあ、いってらっしゃい☆」


 「え、ちょ、ちょっと!?師匠!?ししょおおおおお………」


 こうして、師匠から謎の紙切れを押し付けられたリアルは、抗議する暇もなく、青白い光に包まれたのだった。


ーーーーー


ーーー



 「……、こ、ここは…?」


 気づくと、町の通りのど真ん中に一人ぽつんと立っていた。通りには日の光が差し込み、足元には黒い影が出来ていた。


 「眩しい……」


 辺りを見回しながら、自分の置かれている状況を思い出す。たしか、師匠を起こしにいって、それから……それから?


 「……あーー!!?、あ、あ……す、すみません……」


 つい先ほどのような、とても昔だったようなあの出来事を思い出して、リアルは思わず声を上げてしまう。周囲の目線が刺さるのを感じながら、その場から逃げ出すように走り出した。


 「ここ……ここ!ハーフムーンじゃないよね……!?」


 パニックになるのを必死に堪えながら、何かないかとリアルはこちらに飛ばされる前に師匠に押し付けられた紙切れを開いて確認する。


 「委任状…新規冒険者登録依頼……冒険者ギルド…?」


 再び、おぼろげな記憶が戻ってくる。そういえば、飛ばされる直前、師匠がそんなことを言っていたような……


 「と、ともかく……」


 何にせよ、今はこれしか手がかりがない。手にした紙切れを大事に畳んでボウシに仕舞いこむと、リアルは冒険者ギルドを探して歩き出した。


ーーーーーー


 ーーここは冒険者たちで賑わうギルド直営の酒場、『Bar/クォーツ』。そこで酒場の喧騒を避けるように丸テーブルでポツンと座り込む少女が一人。

 

 「……はあ……言われるまま冒険者として登録できたはいいけど、これからどうすればいいんだろ、わたし…」


 リアルがハーフムーンからケビオスに飛ばされてきてから早10日、なんとか冒険者ギルドにたどり着いたリアルは、師匠から貰った『委任状』を渡して、手続きを済ませ、無事

冒険者としての登録を受けたのだった。


 「師匠が昔使ってたっていう口座にお金がたくさん入ってたからなんとか生活は出来てるけど……冒険者として魔法の実戦経験を積むって言ってもなあ…」


 リアルが冒険者として登録し、ギルドカードを受け取ってから今日で二日、受付嬢のシトリンや、酒場のマスターのウィオラとはなんとか話ができるようになってきたリアルであったが、なにせハーフムーンの外に出るのは初めての出来事。順調に人見知りを発揮し、未だ迷宮に潜れないでいたのだった。


 マスターにお願いをして、冒険者の掲示板に『パーティー募集』の貼り紙を貼り出してもらったはいいものの、登録して二日のド新米に声をかけてくれる人もおらず…


「はあ……誰か声かけてくれる人いないかな……」


 誰を待つともなく、酒場の隅で時間をもて余していたのだった。


 ……と、そこに。


 「なあ、」


 「ひゃ!?、ひゃい!!?」


 不意に声をかけられ、リアルの声が上擦る。確かに声をかけてくれないかとは云ったが、こんなタイミングで来るものか……と、どきどき早鳴る心臓を落ち着けながらリアルが振り替えると、そこにいたのは兜を被り、背中に短剣を挿した、いかにも剣士といった風貌の少年であった。


 「そ、そんな驚くなよ…なあ、パーティー募集してるんだろ?おれと組んでくれないか?」


 「え!?」


 突然の申し出に、リアルは思わず耳を疑う。冒険者として駆け出しも駆け出しの自分に対し、パーティーを持ち掛けてくるなんて、何か企んでいるのではないだろうか?なんて気持ちも湧いてしまう。

 しかし、困惑するリアルとは裏腹に、目の前の少年は目を輝かせる。


 「お前、魔法使えるんだろ?おれ、前衛だからさ、後ろから援護してくれたら丁度いいかなって思ったんだよな!」


 ダメかな?と微笑みかける少年の素直な笑みは、先ほどまで疑っていた自分が恥ずかしくなるような眩しさで


 「いえ……こちらこそ、わたしなんかで良ければ、喜んで!」


 これも何かの縁と、パーティーを承諾したのだった。


 「本当?やったあ!おれ、ユートって言うんだ、よろしくな!」


 「わたしはリアルです……これからよろしくお願いしますね、ユートさん!」


 ーーー果たして少女は、師匠からの無理難題をこなして無事ハーフムーンに帰ることが出来るのか?


 ユートとリアル、二人の冒険者としての物語はまだ始まったばかり…