Chapter2.5ー「ローグ襲来!」



『ローグ』ーー希少価値の高いレリックやジェムを狙って、他の冒険者を襲い、略奪行為を行うならず者。


 大迷宮を探索するには、ケビオス冒険者ギルドが発行するギルドカードが必要である。大迷宮に入るための主要な入り口はほとんどがギルドの管理下にあり、24時間体制で大迷宮への出入が記録されている。

 そのため、大迷宮の中に冒険者以外の不審な者が現れることはない……訳ではないのが現実である。


 「主要な入り口は」「ほとんど」管理下にあると言ったように、大迷宮は複雑に入り組んでおり、未だにギルドの把握できていない裏道が見つかったり、昨日まではなにも無かったはずの場所に新たな入り口が発生したりすることさえあるのだ。


 という訳で、ギルドも大迷宮に繋がる入り口を全て押さえられているわけではなく……一部はローグたちの縄張りとなっているとの噂もある。


 『ローグ』はその成り立ちから大きく分けて三種類に分類することができる。

 一つ目が、大迷宮の噂を聞き付けてケビオスにやってきた盗賊や犯罪者たち……生粋のならず者というやつだ。

 二つ目に、元々は冒険者としてギルドの許可を得て大迷宮を探索していたものの、なにかのきっかけでローグ認定を受けたもの……大抵は他冒険者への妨害や裏切り、ギルドのレリックの持ち逃げや窃盗行為など、重大な規律違反を犯したものがこれにあたる。

 そして三つ目はー非常にまれな例ではあるがーギルドが把握していない入り口から大迷宮に迷い込んだ旅人などが一時的にローグとして認定されてしまうというものだ。


 ギルドのローグに対する第一の対処法は『捕獲』である。ローグの罪状にもよるが……まずは身柄を確保し、話し合い、説得の上で刑務施設に送られるか…更正の余地有りと認められればギルドの更正プログラムを経て再び冒険者として活動を再開するという例もある。


 (新米冒険者がローグに遭遇した際、ベテランと一緒に行動していない限り、取るべき行動は「逃走」「離脱」である。)


 ただ、勿論話はそこまで単純ではなく…あまりに危険度が高いローグに対しては、ギルドから『討伐』依頼が出されることもある。


 特に、新米冒険者の多い第一階層において、狡猾で計画的に冒険者を襲うローグは、時にマター以上の驚異となりうるからだ。


 勿論、討伐といっても原則として生け捕りが前提ではあるが……戦闘力の高いローグもおり、そのような相手を無傷で捕獲することは困難を極める。そのため、討伐依頼を受けるためには、最低でも『新米卒業試験』に合格した中堅以上の冒険者がパーティーにいなくてはならないと決められている。


 ……と、ここまではローグたちが個々で動いている場合の話だ。基本的にローグたちーー特に、二つ名のつくような大物たちーーは群れない…多くても二人組程度がせいぜいだ。元々ローグたちが傾向として集団での行動を苦手とする者が多いこともあるが…大抵は行動の指針や目的が異なるために仲違いしていくからだ。


 では、もしベテラン冒険者でも苦戦するような、厄介なローグ達が一つの目的を持って徒党を組んだら?


 …その危険度は言うまでもなく……



「最近、ローグの被害がまた増えてるみたいだな。」


 執務室で難しそうな顔をしていたギルド長の頭に、不意に聞きなれた声が降ってくる。


「オーパル…いつの間にそこに居たんだい。」


「オレはノックもしたし、もしもしも言ったぜー?よっぽどお悩みのようだな、アンバー。」


オーパルと呼ばれた小柄な男性は手の出ていない袖口をひらひらと振りつつ、軽口を叩きながらアンバーの机に歩みよる。


 依然険しい表情を崩さないアンバーに、オーパルはやれやれといった表情を浮かべる。


「……新米冒険者が増えるこの時期にローグの被害が増えるのは例年もそうだ…だけど」


「複数人の"集団"による計画的な犯行……しかも被害者の証言によると、奴らはみな自分達のことを『ブラックシープ団』と名乗っている、と」


アンバーが机の上の書類をめくりながら話すのにオーパルが付け加える。


「ああ…今のところ、主に表に出てきているのはどうやら組織のボスではなく、構成員のようだが…全員、単体でも討伐依頼を出さなくてはならない程の厄介さだよ。」


「彼らはお互いのことをそれぞれコードネームで呼びあっているらしくてね。」


これだ、と埋もれていた書類の山からアンバーが取り出した4枚の紙ーー手配書には、それぞれの人相書とコードネームが記載されていた。

「『アンダードッグ』、『スケープゴート』、『ナイトオウル』、『コピーキャット』……この中で、データが無かったのはナイトオウルとコピーキャットの二人。アンダードッグとスケープゴートは、過去に一度ローグ指定された人物との照合が取れたからね…どちらも厄介な相手だ。」


「こいつら…『蒐集家』マルキースと『裏切り』のアザゼル!確かに厄介だな…」


「データがない二人も未知数だよ。そして何よりも…彼らのボスと目されている、コードネーム『ダークホース』…こいつが何者なのか、それが今一番欲しい情ほ」


「そうだ!」


突然大声を上げるオーパルに、アンバーは驚いて目を丸くする。


「別にお前をからかうために来たんじゃねーのよオレは!その、お前が一番欲しがってる情報を掴んだからわざわざここまで来てやったんだっつーの!真剣な顔してッから、言い出すタイミング無くしてたぜ。」


「ほ、本当か!?」


「ああ…しかも、聞いたことある名前だぞ。オレたちにとってはな。」


オーパルはそう言うと、何処からか取り出した一枚の紙を机の上の4枚に重ねる。


「ローグ集団『ブラックシープ団』の頭領ーダークホースの本名は…"アルティス"、"アルティス・ドレーム"だ。」


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時は来た。


辛酸を舐めたあの日、大迷宮を後にしたあの日から!!


仲間を集め、力をつけ、道具を揃え


そして今回こそーーー



「オレはーー聖杯を手に入れる…必ずな」


「…いくぞお前ら!今こそ夢を掴む時だ!

…まずは……第一階層で軽く肩慣らしと行くか!」